2023年7月・8月の菊地医院での検査数・感染者数・陽性率 COVID-19の罹患後症状について
新型コロナウイルス感染症の感染法上の類型が、季節性インフルエンザと同じ5類に移行してから3ヶ月以上が経過しました。
前回のブログでご紹介した、全国約5千の定点医療機関から6月19日~25日に報告された、一医療機関当たりの1週間の感染者数は平均7.18人、埼玉県での報告数が1873人でした。
2ヶ月経過し8月21日~27日までの 1週間の感染者数は平均22.74人、埼玉県での報告数が5844人 という結果ですので、 定点医療機関からの定点把握でも明らかに感染者数は急増しております。
前回のブログでご説明した札幌市の新型コロナウイルスの下水サーベイランスの 8月21日~27日までの結果を示します。
新型コロナウイルス | 8月21日~8月27日 | 前週比 |
---|---|---|
下水中のウイルスRNA濃度※1 | 60,000コピー/リットル | ×1.0倍 |
下水からの検出率※2 | 100%(15検体/15検体) | ±0ポイント |
- ウイルス濃度は前週から横ばいで高い水準を継続しており、引き続き警戒が必要です。
第8波は今年の1月6日に、第7波は昨年の8月19日にピークを迎えましたが、札幌市の下水サーベイランスのデータによれば現在の状況は、第7波を越えて第8波に迫る急峻なグラフの傾きを見せており、昨年夏の第7波以上の第9波が襲来しているということになります。
また5月8日以降、ずっと感染者数の増加傾向が持続しています。
ちなみにインフルエンザについての下水サーベイランスのデータは、 8月に入り、少し増加傾向が見られています。
インフルエンザウイルス | 8月21日~8月27日 | 前週比 |
---|---|---|
下水中のウイルスRNA濃度※1 | 429コピー/リットル | ×1.1倍 |
下水からの検出率※2 | 80%(12検体/15検体) | +7ポイント |
- 検出率及びウイルス濃度は増加傾向が続いており、感染の面的な広がりに注意が必要です。
7月・8月の菊地医院での検査数(抗原検査・PCR検査)、感染者数、陽性率を表とグラフにして示します。
PCR・抗原検査での新型コロナウイルス感染症の合計陽性率は、12月:58%、1月:35%、2月:8%、3月:7%、と減少傾向の後、4月:17%と 再び上昇に転じ、5月:24%、6月:31%と増え続けて、7月は43%、8月は63%となり
過去最高であった昨年8月の69%に近づいてきています。
8月18、19、26日は陽性率100%でした。
周囲に新型コロナウイルス感染症の感染者が多くいるためか、陽性であるとお伝えしてもあまり驚かれない方がいます。
一方、まさかコロナに感染していると思っていなくて、驚いて「今、コロナは流行っているのですか?」と聞かれる方もおりました。
札幌市の下水サーベイランスのデータ、当院での結果を見ても、昨年8月の第7波以上の大きな波が来ていると考えますが、検査を受けられた患者さまの意識と現状の日本の流行状況との間に、少し乖離が生じているのではないかという印象を持ちます。
昨年夏の第7波はオミクロン株の「BA.5」によるものでした。
現在国内で流行している新型コロナウイルスの主流は、やはりオミクロン株派生型の「XBB」株になります。
この派生型は従来のオミクロン株よりも免疫から逃れる性質が強くなっていると考えられ、中和抗体が効きにくい可能性があり、BA.5よりも感染しやすいと考えられています。
過去のオミクロン株BA.1やBA.2による感染とワクチン接種によるハイブリッド免疫が、BA.4/5による感染を防ぐ効果が高かったのに対し、XBBによる感染を防ぐ効果は大幅に落ちているという報告があります。
このことからは、過去のオミクロン株感染者やワクチン接種者もXBB系統には感染してしまうことが考えられ、これまでよりも感染者が多くなることが懸念されます。
ファイザーが新型コロナの感染法上の位置付けが5月に5類に移行することを受けて、4月に全国20歳以上の1200人を対象に調査した結果では、
・流行当初と比較して怖い病気ではない」と感じている人は、65.4%
・「怖い病気だ」と感じている人は、23.5%
怖い病気ではないと回答した理由は、
・「重症化リスクの高い人は要注意だが、健康であれば問題ないと思うから」が最多で59.5%、
・「風邪と同じようなものと思うから」が25.1%。
2/3の人がコロナをもう怖くない病気であると思っており、この疾患に対する恐怖感が明らかに少なくなってきております。
歴史学者によると、パンデミックの終わり方には次の2通りがあるとのことです(The New York Times Gina Kolata記者の記事より)。
・医学的な終息 罹患率と死亡率が大きく減少して終わる。
・社会的な終息 病気に対する恐怖心が薄れてきて終わる。
社会的な終息とは、病気が抑え込まれることにより終わるのではなく、人々がパニック状態に疲れて、
「もういい加減にうんざりだ。」、「もう普通の生活に戻ってもいいはずだ。」と言い出して、病気とともに生きるようになることにより、パンデミックが終わるということを意味します。
ウイルス自身も生存していくために弱毒化していき、感染性・伝搬性が強くなり、うつりやすく拡がりやすくなっていく、国民の多数が感染することにより集団免疫が獲得される、現状でもそのようにして医学的な終息に向かっているのかもしれません。
人々が「絶対にうつりたくない。」ではなく「うつってもしかたがない。」という意識に変わったときに、社会的な終息を迎えつつあるのかもしれません。
類型が変わったとはいえ、新型コロナという感染症・ウイルスのそのものの性質が変化したわけではありません。
新型コロナの流行初期の3年半前に比べ致死率・重症度はたしかに低下してきていますが、まだまだ多くの重傷者・死亡者がみられ、後遺症に悩む人もたくさんいます。
後遺障害に対する治療法は確立されていません。
そのような中、新たな課題として新型コロナウイルス感染症に罹患した患者の一部に、さまざまな『罹患後症状』が認められることが分かってきました。
罹患後症状は特に医療を要さない軽度の症状から、就学・就労に影響をあたえる症状までさまざまです。
罹患後症状の発現は、性別・急性期症状の強さ・基礎疾患などの重症化リスク因子と一致しておらず、いずれの年齢・重症度の患者でも発症し得ると考えられています。
若い人や基礎疾患のない人などでも、重症化リスクが低いにもかかわらず、罹患後症状を呈する可能性があります。
症状によってはとてもつらいものもあり、肺がんの症状によるQOLの低下より生活の質を下げてしまう場合もあるほどだ、と指摘する研究者もおります。
COVID-19罹患後症状(いわゆる後遺症)は、 『COVID-19罹患後 に、感染性は消失したにもかかわらず、他に明らかな原因がなく、急性期から持続する症状や、あるいは経過の途中から新たに、または再び生じて持続する症状全般』と定義されていますが、いまだに不明な点が存在します。
罹患後症状は、異常として出てこないこともあり、またさまざまな症状があるため、治療法や扱いが確立されておりません。
代表的な罹患後症状を以下に示します。
代表的な罹患後症状
疲労感・倦怠感
関節痛
筋肉痛
咳・喀痰
息切れ
胸痛
脱毛
記憶障害
集中力低下
頭痛
抑うつ
嗅覚障害
味覚障害
動悸
下痢・腹痛
睡眠障害
筋力低下
罹患後症状の原因やメカニズムに関してはいまだに不明な点が多く、さまざまな仮説が報告されています。
組織への持続的なウイルス感染・免疫調節不全・腸内細菌叢への影響
自己免疫、微細血管での血液凝固と血管内皮細胞の機能障害、脳幹や迷走神経のシグナル伝達機能障害など、
複数の原因が絡み合って発症すると考えられています。
持続的なウイルス感染 が罹患後症状の発生機序の一つとして考えられていることから、
抗ウイルス薬
(レムデシビル:ベクルリー®
モルヌピラビル:ラゲブリオ®
ニルマトレルビル・リトナビル:パキロビット®
エンシトレルビル:ゾコーバ®)
やワクチンで罹患後症状発症を抑制する可能性が示唆されています。
新型コロナウイルス感染症に罹患し、重症化したり死亡される方は現在もいます。
また、 COVID-19罹患後症状 など治療法が確立されていない後遺障害が存在します。
ウイルスが弱毒化してきているとは考えられますが、現状ではまだ医学的な終息は迎えていないのかもしれません。
罹患後症状のようなやっかいな、複雑な病態が存在する以上、私自身は今でもコロナに罹りたくないと思っておりますし、まだコロナに罹っていない患者さまを移らないようにできるだけ守りたいとも考えます。
「コロナとの共生」・「ウイズコロナ」をいくら唱えたとしても、私と同じように考える人が一定数以上いるのであるならば、 「うつってもしかたがない。」 という意識にはならず、社会的な終息も迎えていないと思います。
ファイザーの調査でも1/4近くの方が、 コロナを「怖い病気だ」と感じています。
一番初めに、『中国の武漢ウイルス研究所から COVID-19 が流出した』と疑われたときには、新型コロナウイルスが人為的に作られたものであるという仮説がありました。
中国・武漢ウイルス研究所流出説の信憑性がはっきりとしていないのであるならば、このようなウイルスは絶対に体に入れない方が良いです。
そもそも 社会的な終息 は、国民の側から自発的に病気に対する恐怖心が薄れてきて終わるものであると思います。
国から誘導されるものであってはならないと考えます。
経済も回さなければいけないし、今までに何兆円もコロナ対策に予算をかけてきたのだから、今後は潤沢な資金をかけていくことはもうできないのでしょう。
しかし、昨年の夏と同じように大きな流行の波が襲来し、これだけ多くの感染者が出ているのに、その問題を積極的に取り上げようとしていない国やマスコミの姿勢をみると、穿った見方をすれば何か恣意的な力が働いているような気がしてならないのです。
このあたりは注意深く見ていかなければならないし、これからも新型コロナウイルス感染症に関心を持って行かなければならないと考えています。
8月の当院での陽性率は63%であり、検査した人が全員陽性であった日が3日ありました。
コロナがあまり疑われないような人は、インフルエンザと同じように院内のレントゲン室に隔離し、検査をしたりしています。
ご自身で抗原検査をして陰性であった発熱者などもそうしておりますが、だ液検体ではなくしっかりと鼻ぬぐい液を採取し再検すると、陽性の結果になるようなケースをたびたび経験しております。
新型コロナウイルス感染症に罹っている可能性があり、発熱外来を予約された患者さまにおかれましては、とても暑い院外で待機していただいたり、駐車場の車の中で待っていただくことを大変恐縮に思います。
ただ、ここまで書いてきたような考え方から、いましばらくの間、動線を分けて従来通り院外で検査・診察を行わせていただきたいと考えております。
どうぞよろしくお願いいたします。