2021-22冬期の発熱時のコロナ・インフルエンザの検査について⑤
12月12日(日)日本国内の新型コロナウイルス感染症の新規感染者は120人、東京では13人で31日連続30人を下回りました。コロナワクチンを2回接種し、インフルエンザワクチンも接種を済まされていて、最近では発熱症状があり受診されても、コロナの検査もインフルエンザの検査も必要ないのではないかと希望されない人が多くおられます。
一方で新しい変異株であるオミクロン株の感染は、12月11日(土)の時点で57の国と地域に拡大し、日本国内では新規感染者は13人になりました。 イギリスの研究チームは11日、感染対策を今以上に強化しなければ、イギリスは来年1月にオミクロン株による大きな感染の波に直面することになるとの見方を示しました。日本においても対岸の火事というわけにはいかなくなってくるのかもしれません。
2021-22冬期の発熱時のコロナ・インフルエンザの検査についてとしてブログを書いておりますが、今回が5回目になります。今回はコロナについてはPCR検査、インフルエンザについてはドライケム抗原検査という感度・特異度がもっとも優れる、以下の表のAについて説明させたいただきたいと思います。
当院のPCR検査器:全自動解析装置スマートジーンでは、鼻咽頭ぬぐい液・だ液を採取して抽出液と混ぜ、専用カートリッジに液をたらし解析装置にセットすると、約1時間で陽性か陰性か検査結果がプリントアウトされます。
厚生労働省と国立感染症研究所の検証で性能が確認され、新型コロナウイルスの検出について陽性一致率100%、陰性一致率100%として感度・特異度ともに優れます。
富士ドライケム IMMUNO AG1・AG2を用いた高感度インフルエンザ検査では、新開発の増幅技術により、イムノクロマト法の検出感度を高め、発症初期のウィルス量が少ない検体に対して検出能が向上しました。
標識に用いる金コロイド粒子を、写真現象の銀増幅原理を応用する事により約100倍に増幅し、検出感度を向上しました。
それではこれらの機器がそれぞれの感染症のどの時期にもっとも威力を発揮するか説明したいと思います。
インフルエンザウイルスは非常に増えるのが速く、1個のウイルスが24時間後には100万個になると言われています。
あまりにも速くウイルスが増殖するので、それに対抗しようとして体が反応して、発熱・頭痛などの強い症状が早期に出現します。感染から2~3日経つともう免疫反応が起こり抗体が産生され、比較的早くウイルスが体内から排除されます。 ノイラミニダーゼ阻害薬などの抗インフルエンザウィルス薬はできるだけ早期(発症後48時間以内)に服用を開始することが重要です。一方で、インフルエンザの確定診断を迅速診断キットで行う場合、発症6時間以内は感度が10%前後と低く、高熱がみられてから1日以上経過していないと陽性にならないこともよく経験します。 できるだけ早期に的確に診断し、服用を開始することが重要と考えます。
- 発熱してから1日以上経過しないと検査で陽性にならない!
- 発症後2日以内に治療を開始しないといけない!
- 発熱して間もない場合は、翌日再度検査しないといけない!
あのイヤな鼻グリグリのインフルエンザ検査は1回で済ませたいですよね。
しかし発熱して間もない場合には、検体中のウィルス量が少なく迅速診断キットで陽性にならず、高熱のまま経過を見て翌日再検査しなければならないことがありました。
先日、発熱が見られた患者さまに、富士ドライケム IMMUNO AG2を用いて、インフルエンザの抗原検査を行いました。 PCR検査の結果、コロナは陰性。インフルエンザの検査結果は、A:(+)という結果でした。
カッコ付きのA:(+)という意味は、1段階目の検査で陰性、増感される2段階目の検査でやっと陽性になったという意味で、非常にウイルス量の少ない初期の段階で診断できたということになります。
今回もイムノクロマト法による抗原検査( クイックナビ-Flu2 )では陰性になりました。
また「クイックナビリーダー」という検査器もあります。
「クイックナビリーダー」は光学センサーにより「クイックナビ-Flu2」の陽性ラインを読み取り、陽性・陰性を判定するデンシトメトリー(光学密度測定)分析装置です。非常に低い分画濃度でも検出が可能で、目視判定が困難なほどの薄い発色であっても、A型およびB型インフルエンザウイルス抗原の有無が判定できます。
この検査器にクイックナビ-Flu2を差し込んでみましたが、その結果も陰性でした。
この症例は、クイックナビ-Flu2とクイックナビ-Flu2を差し込んだクイックナビリーダーでも結果が陰性となり、発症早期のウイルス量が非常に少ないケースと思われましたが、ドライケム IMMUNO AG2では陽性になりました。
発症から間もないケースにはドライケムによるインフルエンザ検査を積極的に行っていきたいと思います。
次に新型コロナウイルスの検出にPCR検査を用いる場合、どの時期にもっとも威力を発揮するか説明したいと思います。
新型コロナウイルスはジワジワ、ゆっくりと増えるのが特徴です。感染してから数日してからやっとウイルスが増え始め、それに対して体が反応してゆっくりと免疫反応が起こってきます。
多くの人では感染しても全く症状がないのですが、恐ろしいことに症状がなくてもウイルスは肺の中で増えている場合があるということが分かっています。
免疫反応がゆっくりとしか起こらないため、ウイルスはダラダラ、ダラダラと体の中で増え続けていて、感染してから2週間、3週間経過してもまだウイルスを出している人がいます。
これがこのウイルスの怖いところです。
感染してからの数日間の潜伏期間の時期(平均4~5日前後)はPCR検査の結果が偽陰性となってしまうことがあります。 コロナウイルスはジワジワ、ゆっくりと増え、 感染してから数日してからやっとウイルスが増え始めるため、感染直後にはPCRをもってしてもウイルスを検出しきれない可能性があります。 同居家族がコロナ患者であることが判明した濃厚接触者に、早い時期にPCR検査を行っても結果が陰性となり、数日後に発熱して再度検査をしたら陽性となったケースは、たびたび経験しました。
しかし発熱や咳などの症状がはっきりと見られるようになった時期には、ウイルスの複製がかなり進み、ウイルス量が多くなっているために陽性としてひろいあげることができます。ただ発症から9日までのこの時期には、抗原検査を用いても陽性診断が可能であり、抗原検査で陰性となった場合には、その時点では新型コロナウイルス感染症ではないと言い切ることができるのですから、この時期は抗原検査を用いて代用することもできると思います。新型コロナウイルス感染症は発症する2日前から、他人に感染させると言われています。無症状のこの時期は抗原検査ではすり抜けてしまう可能性があります。
コロナウイルスの検出に対してPCR検査がもっとも威力を発揮するのはこの2日間ではないでしょうか。 発症から2週間以上経過しても ウイルスはダラダラ、ダラダラと体の中で増え続けていて 、また数週間経過した段階でもウイルスの残骸やDNA断片が数コピーでも存在すれば、PCR検査の結果で陽性になってしまいます。この時期は感染性はなく、PCR検査をしてもあまり意味がないのかもしれません。
第5波で蔓延したデルタ株がオミクロン株に置き換わり、大きな感染の波として第6波が日本に襲来した時には、抗原検査・PCR検査の特性をよく理解し、感染者との接触から適切な時期にこれらの検査を行い、感染者をひろい上げることが重要であると考えます。