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発熱外来ブログ

2021-22冬期の発熱時のコロナ・インフルエンザの検査について④

2021.11.30

南アフリカ共和国から新たな変異株が見つかり、11月26日にWHOはこれをオミクロン株として「懸念される変異株VOC:Variant of Concern)」に位置づけました。

WHOは新型コロナウイルスの変異株の呼称について、差別を助長する懸念から、最初に確認された国名の使用を避け、ギリシャ語のアルファベットを使用し変異株に名前をつけています。オミクロンは15番目のギリシャ語のアルファベットになります。

新型コロナウイルスの新しい変異株であるオミクロン株は2021年11月11日にボツワナで採取された検体から初めて検出されました。

オミクロン株についてはまだ十分に分かっていないことが多いのが現状です。

オミクロン株は、30を超える変異を持ち、これまでの約2年間の新型コロナウイルスの流行の中で、最も分岐した変異株です。このため、ワクチンの効果を低下させ、再感染のリスクを高める可能性が懸念されています。

ウイルス単独では生存できません。自分自身で増殖する能力が無く、生きた細胞の中でしか増殖できませんので、他の生物を利用して自己を複製することでのみ増殖します。その過程で「変異」を繰り返し、より環境に適応しやすいよう姿を変えていきます。

ここでウイルスが細胞内に侵入し、自己を複製しながら増殖を繰り返し、その過程で起こる「変異」についてご説明します。

<変異の過程>

➀まず、ウイルス表面にある、とげ状の「スパイクタンパク質」が、ヒトの細胞表面で受け手となる受容体タンパク質(アンジオテンシン変換酵素2=ACE2)に結合して細胞内へ侵入します。

 

➁新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、スパイク(S)エンベロープ(E)メンブレン(M)、ヌクレオカプシド(N)の4種類の構造タンパク質が素材となり構成されています。

  細胞内では、RNAの情報に従って、ウイルスの素材となるタンパク質が翻訳され合成されます。

一方、RNAは大量に複製され、タンパク質とともに組み立て・成熟が進んで「子孫ウイルス」ができ、それらが細胞外へ放出されていきます。

 

➂この過程で、RNA複製の際に一定の確率でミスが生じ、RNAを構成する塩基の配列が変わることがある。この現象が「変異」と呼ばれます。

2021-22冬期の発熱時のコロナ・インフルエンザの検査について②で、「ウイルスは変異し過ぎるとそのせいで自滅する」という「エラー・カタストロフの限界」の理論をご説明しました。

ウイルスの増殖が速ければそれだけさまざまな複製ミスが起こり、ある一定の閾値を超えると、今度はそのウイルスの生存に必要な遺伝子までも壊してしまい、ウイルスが自壊するという理論です。そういった方向に変異が進めば感染の波は収束していきます。現在の日本で起きている第5波の収束はウイルスが自壊し感染減少ピークアウト)が起きたと考える研究者もおります。

しかし、高い複製能力を持つ変異株が生まれてしまうと急速に感染が拡大してしまいます。

オミクロン株のスパイク蛋白には32もの変異が見つかっており、このうちH655YN679KP681Hという3つの変異はS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連し、感染力の増加に関わっている可能性があります。 

11月28日にアフリカ南部のナミビアから成田空港に到着した30代男性が入国時の検査で陽性と判定され、ウイルスのゲノム(全遺伝情報)を解析した結果、オミクロン株と判明したことを11月30日に日本政府が発表しました。

感染が拡大する速度は現在まではデルタ株が最も速く、日本でも第5波では従来株が急速にデルタ株に置き換わりました。

オミクロン株の感染力が強く、感染速度もデルタ株並であったならオミクロン株に置き換わった第6波はかつてない規模で日本に襲来する可能性も考えられます。

日本に新型コロナウイルスの第一波が蔓延した2020年4月以降、1年半以上にもわたり日本人はこのウイルスと戦っています。国民の多くがワクチンを2回接種しこれから3回目の接種が始まろうとしていて、現時点では感染者が激減し未来に光が見えてきておりました。そこにオミクロン株の国内で初めての感染者が出たという発表を聞いて、暗鬱な気持ちになってしまいます。

人間の細胞の中で増殖を繰り返し、なんとか生き残ろうとして変異をしていくウイルス・・・・

多くの感染による犠牲者を出しながら、ワクチンや治療薬を開発し、またそのウイルスに対する免疫力・抵抗力を身につけ、進化していく人間・・・・

H・G・ウェルズの小説で2005年にトム・クルーズ主演で映画化された、スティーブン・スピルバーグ監督の『宇宙戦争』という映画を、昔見ました。

巨大なクラゲみたいな三脚歩行機械「トライポッド」を操縦する宇宙人が、地底から飛び出し光線兵器で人間を殺害し町を破壊し、地球を侵略していく。人類の兵器や軍隊は「侵略者」に手も足も出ず、破壊と殺戮が繰り返される。このまま人類は滅亡してしまうのかと思っていたら、トライポッドもろとも宇宙人が自滅し死んでいき、人類は滅亡の危機から救われるというストーリーです。

映画のラストでナレーションが流れます。

「地球に降りた侵略者を倒し、死に追いやったのは、人間の武器や兵器ではなく、地球に存在する微生物であった。   人類は何億もの命を犠牲にして免疫を身につけ、地球上の生物と共生していく権利を勝ち得た。」

地球を侵略しようとした宇宙人には、地球に一般に存在する微生物に対する耐性・免疫がなく、感染して死に至り自滅した、というのが結末です。

このあっけないオチには賛否両論がありました。

きっといつか新型コロナウイルスに対しても、人間は免疫力・抵抗力を獲得し、宇宙人のように自滅するのではなく、進化しながらこれからも地球上の生物と共生していくことができると信じております。

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