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発熱外来ブログ

新型コロナウイルス感染症に対する2年間の日本政府の対応について

2021.12.17

新型コロナウイルス感染症の日本での初感染は、2020年1月15日でした。
それから2年近く日本国民はこの新しい感染症と戦ってきました。


繰り返し緊急事態宣言蔓延防止法が発令され、飲食店は国からの営業の時短要請などを遵守し、私たちも密を避けて、手指消毒・マスク着用、換気を徹底し、必死に対策を行ってきました。

しかしその間の国の対策は、英断ができなかったり、政治的な判断が優先されたり、ドタバタし、後手に回ったり、慎重さを欠くものであったと思っています。

緊急事態宣言の1回目は2020年4月7日に安倍総理大臣によって行われ、まず東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に出され、その後4月16日に対象を全国に拡大しました。時間の経過とともに検証されますが、結果としてこの時点では全国にまで拡大する必要はなかったと思われます。
そのリーダーはアベノマスクと揶揄された布マスクを税金を使って全国に配り、シンガーソングライターの演奏する楽曲(うちで躍ろう)とともに自宅で犬とくつろぐ動画をツィッターに投稿し、ネット上で大炎上しました。
そして第2波の最中8月28日、持病を理由に辞意表明をします。

2020年7月に入って以降、再び感染者が増加する傾向にあり、地方自治体の首長からは「Go To トラベルキャンペーン」は時期早々ではないかとする意見が上がっていましたが、安倍総理のあとを引き継いだ菅総理は、Go To キャンペーンを押し進めました。
そして2021年1月デルタ株が蔓延し第3波のピークを迎えます。

                           (出典:森外科医院)

2021年7月22日の東京都のモニタリング会議では、「新規感染者の増加が今のペースで続いた場合、2週間を待たずに第3波をはるかに越える危機的な感染状況になる」と強い懸念が示されたのに、7月23日から東京オリンピックが開催されました。

そして第5波のピーク8月20日 新規感染者数最多 2万5868人)を迎えます。

入院と自宅療養、宿泊療養を含めた療養者総数は約21万人におよび、各地で症状が悪化しても入院できない患者が相次ぎ、多くの方が自宅療養中に命を落とされました。

新型コロナウイルスの感染拡大がここまで深刻化し戦後最大級の危機として、対応策を議論するために臨時国会の召集を求められましたが、与党はこれに応じず国会が開催されることはありませんでした。

                      (出典:忽那 賢志先生のデータ)

そして9月3日、コロナ対策と総裁選の選挙活動を両立できないことを理由に、総裁選に出馬せずに菅総理も退陣することになります。

日本全国の新型コロナウイルスのワクチン摂取率は12月15日時点で、1回目:73.57%、2回目:72.80%ですが、接種が開始されたのは諸外国に比べ遅く、やっと今年の2月の中旬からでした。
医療従事者への接種が済み、一般の高齢者向けのワクチン接種が始まった5月11日時点での、人口に占める1回目の接種を終えた人の割合は、イスラエル:63%、イギリス:52%、アメリカ:46%であったのに対し、日本はわずか2.91%であり、世界で131番目でした。

東京オリンピック開幕までわずか7週間という6月上旬では、日本では人口の3.5%しかワクチン接種を終えておらず、名目GDPが世界第3位の経済大国である日本において、ワクチン摂取率がなぜここまで低いのかとても不思議に思いました。
7月末までに希望する高齢者の接種を終わらせるようにと、河野ワクチン担当相が前に出て徐々に接種回数が増えてきました。
菊地医院でも5月からコロナワクチン接種を行い、1週間に150人以上のペースで接種を行ってきました。しかし、ワクチンの供給が悪くなり、8月には一時的に予約を中断しなければならない事態になります。

新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が9月中旬から激減してきます。埼玉県内においても11月に入ってからは、陽性者の数がヒトケタの日が多くなります。
日本においては諸外国の感染状況に反して、奇跡的に第5波が収束に向かいます。
今までの経験から慎重に対応し、海外で流行しているウイルスが日本に持ち込まれないように水際対策をしっかりと取るべきであったと考えますが、11月5日には国際的な往来再開に向けた段階的措置として水際対策が緩和され、外国人の新規入国制限が見直され、入国後の行動制限も11月8日から緩和されます。帰国者の入国隔離期間も10日から3日に短縮されます。11月26日からは入国者数の制限が、一日あたりの上限を3500人から5000人までに緩和されました。
そして、11月28日にアフリカ南部のナミビアから成田空港に到着した30代男性が入国時の検査で陽性と判定され、ウイルスのゲノム(全遺伝情報)を解析した結果、オミクロン株と判明したことを11月30日に日本政府が発表しました。
そして11月30日以降は一度緩和した水際対策に関わる措置が停止され、外国人の新規入国が認められなくなるという事態になります。
12月15日には国内でオミクロン株への感染が確認された人は32人になりました。

ここまで、新型コロナウイルス感染症の日本での初感染から2年近くの日本政府の対応を、批判する気持ちを強く持ちながら書いてきました。
そしてさらに信じられないような改訂が、12月10日に厚生労働省より発表されました。
12月末から新型コロナウイルス感染症に対するPCR検査・抗原検査の診療保険点数を一気に引き下げるというものです。
来年初頭にオミクロン株に置き換わった第6波が、かつてない規模で日本に襲来する可能性も考えられ、オミクロン株による大きな感染の波を前に、その改訂がいかに最悪なものであるかについて意見を述べさせていただきたいと思います。

改訂の具体的な内容は以下のようになります。

COVID-19に対するPCR検査の実施料(外部委託する場合)が、

         12月31日以降:1800点から1350点減額(4500円減額)  
        来年4月1日以降:1350点から700点減額(6500円減額)

COVID-19に対するPCR検査の実施料(院内で行う場合)が、

         12月31日以降:1350点から700点減額(6500減額)

COVID-19に対する抗原検査の実施料が、

         12月31日以降:600点から300点減額(3000円減額)

COVID-19・インフルエンザに対する抗原同時検査の実施料が、

         12月31日以降:600点から420点減額(1800円減額)

細かい保険点数の話で恐縮に思いますが、具体的に説明させていただきます。

新型コロナウイルス感染症に対するPCR・抗原検査は、公費対象ですから患者負担はありません。国が医療機関に支払う報酬が上記のように減額されるというものです。

菊地医院では院内スマートジーンという検査機器を用いてPCR検査を行っております。

検査を行うに当たってカートリッジ検体採取セットが必要であり、今回の改訂()が行われ実施料が700点に減額された場合には、その備品の経費を差し引くと675円の利益が出ます。

当院より備品の経費を高く納入している病院は、逆ざやになり利益が出ない可能性があります。

つまり、当院では1回PCR検査を行うと675円の利益が出ますが、検査を行うことで赤字になってしまう病院もあると思われます。これではPCR検査を行うことをやめてしまう病院が出てくる可能性があります。
今回の改訂による減額はそれほど大きなものなのです。

PCR検査外部委託している施設での改訂が行われた場合、検査会社に委託するPCR検査料が一般的な12000円であったとすると、12月31日以降は1500円の利益、来年4月1日以降は1回の検査につきマイナス5000円の赤字になることになります。PCR検査を続けた場合、検査会社が大幅に検査料を引き下げない限り、続けられなくなる病院が出てくると思われます。

同様に当院でドライケムIMMUNO AGという機器を使用し抗原検査を行っておりますが、の改訂が行われ300点減額された場合の差益は2460円、COVID-19・インフルエンザに対する同時抗原検査QuickNavi-Flu+COVID19Ag)に対しての改訂が行われた場合の差益は1690円になります。

第5波のピーク時にPCR検査も受けられず、入院もできない患者が自宅で亡くなっていく状況を看過できず、危険を顧みずにファストドクターになり、コロナ患者の往診を行っていたドクターがいます。病院でコロナの重症患者を診療していたドクターも、診療行為に対する保険点数などは考慮せずに、自身の使命感で納得のいく診療行為を行っていたのだと思います。
しかし、今後このような改訂が行われ、自身が追うリスクを考慮されずに診療報酬の引き下げが行われていったらバーンアウトしてしまうドクターもいるかもしれません。


私も発熱者を診療する際、院内での診察を一度ストップして、防護服・N95マスク・フェイスシールドを装着し、発熱外来のエアロゾルボックス内で鼻咽頭ぬぐい液を採取し、検体を処理してPCR検査機器にカートリッジを設置して、1時間かけて検査を行っております。
その報酬が675円であったら、私自身もバーンアウトしてしまうかもしれません。

埼玉県内でもPCR検査を行う病院が着実に増えてきました。それでも第5波のピーク時には検査を受けられないPCR難民がたくさん出ました。

コロナに対する厚生労働省の施策、対応はころころと変わってしまうようですが、デルタ株がオミクロン株に置き換わりかつてないほどの大きな感染の波が打ち寄せるリスクの前に、世界各国の首脳の対応とは異なり、なぜ日本だけが逆行する対応をするのでしょうか?
着実に増えつつあるPCR検査を行える施設を一気に破壊するような改訂をなぜ行うのでしょうか?


2020年5月30日の『コロナ関連ニュースーPCR検査』というブログの中で、日本ではどうも積極的にPCR検査増やそうとしてこなかったのではないかと、思えて仕方がないと自分の印象を書きました。
その後PCR検査ができる施設を増やす施策が取られてきたと思っておりますが、ここにきてまた訳が分からなくなってきました。

PCR検査をたくさん行うと陽性者が多数出て、入院や宿泊療養をさせる必要があり、医療が逼迫してしまうため、PCR検査をさせないようにでもしているのでしょうか?

そうであれば、未だ正体のはっきりしないオミクロン株の脅威を、きわめて軽く考えているとしか思えないのです。

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