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発熱外来ブログ

新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染

2023.09.06

9月2日に発熱症状がみられた7歳の男の子と4歳の女の子の兄妹に、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの検査を行いました。
通常の抗原検査キットよりも検出感度が優れているドライケム抗原検査を用いて、双方の検査をしました。

ドライケム抗原検査は、 標識に用いる金コロイド粒子を写真現象の銀増幅原理を応用する事により、約100倍に増幅しイムノクロマト法の検出感度を高め、発症初期のウィルス量が少ない検体に対して検出能を向上させています。

結果は、兄はコロナ(+)・インフルエンザは(-)、妹はインフルエンザA型(+)・コロナ(-)でした。
いっしょに生活している二人は交互に感染して重複感染を起こす可能性がありました。
発熱が持続するので9月5日に二人とも再度検査をしました。
インフルエンザA型陽性の妹は、PCR検査でコロナの検査を行いましたが結果は陰性でした。
コロナ陽性であった兄は、ドライケム抗原検査で再度両方の検査を行いましたが、 コロナ(+)・インフルエンザもA型(+) という結果が出ました。

インフルエンザ陽性という結果が偽陽性である可能性も考えられ、より感度・特異度に優れるPCR検査を用いて再検しました。

PCR検査でもコロナは陽性であり、45サイクルかけてウイルスの遺伝子を増幅するのですが、31サイクル目で陽性の結果が得られておりますので、発症早期でまだウイルス量の多い状態であると考えられました。
インフルエンザはPCR検査では陰性でした。
PCR検査の検出感度の方が信頼性が高く、ドライケム抗原検査でのインフルエンザ陽性の結果は偽陽性であったと考えられます。

9月6日に、発熱がみられ数日前から咽頭痛があったという18歳の男性が来院されました。
通常の抗原検査キットでインフルエンザ・コロナの検査を行ったところ、両方とも陽性でした。
キットを目視しても、インフルエンザの判定ライン(T)にくっきりと線が認められました。
ただ、コロナの判定ライン (T) よりは線の濃さは薄めでした。

インフルエンザとコロナが両方陽性になった場合は重複感染が疑われますが、どちらかが偽陽性である場合も考えられますので、より感度が優れる検査で再検しております。
ドライケム抗原検査で再検したところ、インフルエンザもコロナも陽性でした。

さらに感度・特異度に優れるPCR検査を用いて、インフル・コロナの検査を行いました。

結果は両方とも陽性でした。
コロナは26サイクル目で陽性であり、発症早期でウイルス量の多い状態、
インフルエンザについては抗原検査キットの判定ラインも薄めでしたが、42サイクル目でやっと陽性ですので、発症ごく初期のウイルス量の少ない状況ではないかと考えられました。
特定のウイルスに感染していると他のウイルスの感染/増殖を抑制するというウイルス干渉という現象があり、双方のウイルスの増殖が抑制されることもあります。
このケースでは新型コロナウイルスとインフルエンザのウイルス双方の重感染があり、体内にはコロナウイルスのほうが量がずっと多い状況で、症状の主な原因は新型コロナウイルス感染症によるものなのではないかと考えます。

長崎大学原爆後障害医療研究所の共同研究の論文(オンライン学術誌“Scientific Reports”)によると、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが重複感染すると肺炎が重症化・長期化する可能性が示されています。
双方のウイルスは個体レベル、臓器レベル(肺)ではウイルス干渉を起こさないが、細胞レベルでのウイルス干渉は起こり得るということが分かっており、両ウイルスの重複感染と同時流行は起こり得るということが示唆されています。

前回のブログでご紹介した、札幌市の下水サーベイランスのインフルエンザのデータでも、検出率及びウイルス濃度は増加傾向が続いており、感染の拡大が懸念されております。
発熱外来でもコロナの陽性者の数は多いままで経過していますが、インフルエンザの陽性者も増加してきています。
新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの重複感染が、肺炎を重症化・長期化する リスクを有するなら、 COVID-19 陽性の患者さまのインフルエンザ感染の有無について調べておくことは、重要なのではないかと思われます。

昨年夏の第7波以上の新型コロナウイルス感染症の大きな波が襲来していると考えておりますが、その中でインフルエンザの感染者数も増加傾向を示し、秋以降の予防接種の時期を迎えます。
2023-24秋冬シーズンのインフル・コロナ同時流行(ツインデミック)に備えて、それぞれのワクチンを接種しておくなど、感染対策は今もまだ大切な状況であると考えています。

※追記します。
冒頭でご紹介した兄妹の経過です。
9/2:兄: ドライケム抗原検査  コロナ(+)インフルエンザ(-)、妹:インフルエンザA型(+)コロナ(-)
発熱が持続し9/5に再検査
9/5: 兄: ドライケム抗原検査  コロナ(+)インフルエンザ(+) 、PCR: コロナ(+)インフルエンザ(-)
   妹: PCR: コロナ(-)
兄は39度以上の熱持続、妹はインフルエンザの治療をして5日目 症状軽快(コロナの重感染はないと思われる。)
本日、兄についてPCRで再検査しました。

9/7:兄:PCR:インフルエンザA型(+)
   
兄は9/5の時点ではまだ妹のインフルエンザが感染しておりませんでしたが、9/7はインフルエンザA型陽性でコロナとインフルの重感染の状態になりました。
前述の18歳男性のケースと同様で、42サイクル目で陽性になりました。
兄のケースで9/5の ドライケム抗原検査  インフルエンザ(+) は偽陽性であったと考えますが、コロナ発症後5日目にインフルエンザPCR陽性になり、重感染しました。

このようにコロナ感染後療養中にインフルエンザにも感染するケースは、今後もみられると思いますし、その逆のケースも起こり得るのではないかと考えます。(インフルエンザ罹患中にコロナに感染)
インフルエンザ陽性の診断が得られれば、一般的にはただちにノイラミニダーゼ阻害薬を抗ウイルス薬として処方します。
コロナ陽性の診断が得られても、全例に抗ウイルス薬 を処方するという訳ではなく、当院でも基礎疾患があり重症化のリスクがあるケースではモルヌピラビルラゲブリオ®やニルマトレルビルリトナビルパキロビット®を処方し、症状の強い場合はエンシトレルビルゾコーバ®を処方しますが、まずは対症療法として解熱剤・鎮咳去痰剤などを処方することが多いです。

ゾコーバ は、プロテアーゼと呼ばれるウイルスの増殖に必要な酵素を邪魔することで、体の中でウイルスが増殖することを防ぎます。
その結果、症状が回復するまでの期間を短くすることが期待できるとされています。
さらに、Clinical Infectious Diseases に掲載された論文によると、ウイルス力価陰性が最初に確認されるまでの時間が、ゾコーバ使用群の中央値が51.3時間であったのに対し、プラセボ群では91.9時間であり、ウイルスがその力を失うまでの時間がゾコーバを服用することで有意に短縮されることが分かりました(Efficacy and Safety of Ensitrelvir in Patients With Mild-to-Moderate Coronavirus Disease 2019(COVID-19):The Phase 2b Part of a Randmized, Placebo-Controlled, Phase 2/3 Study)。
この結果はからは、コロナ陽性者がウイルスを排出している療養期間中にゾコーバを服用することで、周囲の人に感染させるリスクを軽減することができるのではないか、ということが示唆されます。
ゾコーバは12歳以上でないと服用できないので、前述の兄妹のケースでインフルエンザにかかっている妹が兄からコロナを移されないために、兄がゾコーバを内服するといったことはできないのですが、高齢者や、基礎疾患があり重症化リスクのある家族を持つコロナ陽性者が、家族に感染させないために予防的に内服する意味はあるのではないかと考えます。

本日のニュースには 、政府が検討する新型コロナウイルス感染症の医療支援見直し案が出ておりました。
ラゲブリオパキロビッドなどの抗ウイルス薬は1人当たりの薬価が9万円台なのですが、10月以降は、1割程度を国民に自己負担してもらう考えであり、来年4月以降は通常の病気やけがと同様に、原則1~3割の負担とする方向だとのことです。
これにより現在は全額公費で賄っている 抗ウイルス薬 は10月以降、9千円を基本として患者に自己負担を求め、所得に応じて6千円や3千円に軽減するという方針の見直し案になります。

新型コロナウイルス感染症が医学的な終息を迎えるためには、安全で効果的なワクチンや治療薬が開発され、それらを国民が身近に使用できるようになることが必須であると考えます。
新型コロナの抗ウイルス薬も、その薬が周囲への感染の拡がりを抑制したり、罹患後症状の発症を予防できる可能性があるなら、インフルエンザの抗ウイルス薬と同様に診断した時点でもっと気軽に使用できるようになれば良いと思います。

昨年夏の第7波以上の大きな波が襲来し、新型コロナウイルス感染症をコントロールできていない現状で、新型コロナの法的な位置付けを5月にインフルエンザと同じ「5類」に引き下げたのも、今回のような 医療支援見直し案 もすべて、ただ予算を減らすというこの国の政府の考え方のように思えて仕方がありません。


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