蕨市の菊地医院 内科、小児科、外科、皮膚科の診療

菊地医院

内科・小児科・外科・皮膚科

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菊地医院コラム

感染性胃腸炎について

(1)感染性胃腸炎とは

ウィルス、あるいは細菌などの感染性病原体が原因になり、吐き気・嘔吐、下痢、腹痛などの急性の胃腸炎症状を引き起こす病気です。その結果として種々の程度の脱水、電解質喪失症状、発熱などの全身症状が加わるものを感染性胃腸炎と言います。
年長児や成人では細菌性腸炎の頻度が高いのですが、乳幼児ではウィルス性腸炎が圧倒的に多くなります。
特に1歳以下の乳児では症状の進行が早く、乳児嘔吐下痢症と呼ばれます。

 

(2)感染性胃腸炎の原因

ウィルスによるものと細菌によるものに分かれます。
ウィルス性:ロタウィルス・ノロウィルス・アデノウィルスなどで、主に冬場に見られます。
細菌性:サルモネラ・腸炎ビブリオ・カンピロバクター・病原性大腸菌などがあり、主に夏場に見られます。夏場の食中毒の原因は主にこれによるものです。

 

(3)感染性胃腸炎の症状と治療

1)感染性胃腸炎の症状

吐き気や嘔吐・下痢・発熱・腹痛・全身倦怠感などの症状が見られます。下痢は軟便~水様便が頻回に認められ、時に血便を呈することもあります。この際に特に注意しなければならないのは脱水症状です。下痢や嘔吐による水分の喪失に加え、飲水ができず、また発熱による不感蒸泄の増加もあり、脱水には要注意です。特に老人や子供の場合、自覚症状が出現しにくいこともあり、全身倦怠感が強い時やグッタリした時などは脱水症の可能性が考えられます。
感染症の特徴として見られる発熱は、時に高熱を呈します。
一般的にウィルス性に比べ細菌性のものの方が症状は重篤です。
またウィルス性のものでは咳や鼻水などの上気道炎症状を伴うこともあります。

 

2)感染性胃腸炎の治療

ウィルス性胃腸炎にはインフルエンザなどと異なり有効な抗ウィルス薬がないので、主に対症療法になります。
細菌性腸炎には抗菌薬(抗生物質)が用いられます。

 

1. 嘔吐

ウィルス性腸炎の場合、嘔吐はおおむね12時間で治まり、24時間以上続くことは稀です。通常は胃の内容物の嘔吐に留まるので、胆汁性の嘔吐は認められません。胃の内容物が空虚になるといったん吐き気が治まり、幼児の場合飲み物や食べ物を要求する場合があります。ここで糖分濃度の高い果汁や脂肪分の多い乳製品を与えても、速やかに消化・吸収することができずに再度吐き気と嘔吐が始まるので、経口電解質液を少しずつ感覚をあけて与えることが望ましいと思います。それでも嘔吐開始後3~4時間は、何も飲ませたり食べさせたりしなくても吐くことが多く、あまり飲んだり食べたりはさせない方が良いでしょう。次の3~4時間は、たくさん飲ませたりしなければ徐々に吐かなくなります。牛乳やミルク、乳製品を避け、お茶や薄いリンゴジュースなどを少しずつゆっくりとあげてください。脱水や体内の電解質のバランスのくずれの予防のために、ミネラルの含まれるスポーツドリンク(ポカリスウェットやアクエリアスなど)の少量ずつの頻回の補給は有効です。ただこれらの市販のスポーツドリンクは電解質濃度が低く、逆に糖質の含有量が多すぎるので、市販の乳幼児用イオン飲料水の中では、アクアライト、アクアサ-ナ、OS-1(オーエスワン)がより適切と思われます。
この時冷蔵庫などで冷やさず、室温にしておく方が良いでしょう。
2歳~6歳くらいの子供が精神的ストレスや緊張、疲労、感染症などが引き金になって発症するアセトン血性嘔吐症も、嘔気・嘔吐が認められるので、鑑別診断が必要です。
嘔気・嘔吐症状が強く脱水が疑われる場合には、外来で点滴したり、入院させて持続点滴をする必要がある場合もあります。
中枢性制吐剤であるナウゼリンは嘔吐中枢に作用して強い制吐作用を有します。嘔気があるので経口投与よりは座薬で使用するのが実際的と思われますが、副作用(頭痛・めまい・眠気・不安・興奮・錐体外路症状など)もあるため、小児では使い過ぎないようにする注意も必要です。

 

2. 下痢

嘔吐が治まる頃から下痢が始まることが多い様です。嘔吐と下痢は、病原体を身体から排出しようとするひとつの防衛反応です。下痢に対して下痢止めを使用しても、治療期間は変わらないとの報告が多く、病原体を腸管内に停留させる欠点もあり、強い下痢止めは使わない方が良いでしょう。下痢は止めない方が回復を早め、下痢を止めずに、脱水にならない様に水分補給に努めることが大切です。
下痢があっても水分吸収は可能なので、重症の脱水症でなければ経口輸液製剤ソリタT3顆粒)などを服用させる方法もあります。
また下痢の回数と病気の重症度は無関係であり、ウィルス性腸炎では一般的に3~4日程度で症状が落ち着きますが、経過が長いと1週間持続する事もあります。
食事療法が下痢についても治療の基本です。おもゆや野菜スープ、すりおろしリンゴから始め、消化の良いおかゆやうどん、またヨーグルトや豆腐などが望まれます。食事の回数は1日5~6回に分けることにより1回あたりの食事量をおさえてください。また食材は細かく切って、よく煮込んでやわらかくし、胃や腸に負担をかけないようにしましょう。脂肪の多い食事や菓子類、繊維質に富む野菜、きのこ、こんにゃく、海藻は下痢を起こしやすいので避けてください。また腸管壁に刺激を与える香辛料、ニラやニンニクなどの刺激の強い野菜も避けて下さい。アルコール類も脱水を助長するので良くありません。

 

●下痢に対する薬

1.乳酸菌製剤ビオフェルミン・ラックビー・エンテロノンなど)
いわゆる整腸剤で、下痢に対する効果は弱いです。乳酸菌製剤は腸内で糖を分解して乳酸を産生し、腸内を酸性にして、タンパク分解菌や病原性大腸菌など有害菌の発育を抑え、異常発酵や腐敗を防止して便通を整えます。ラックビーR、エンテロノンRなどの薬は牛乳の成分が薬に含まれており、牛乳アレルギーのある人には注意が必要です。

 

2.収斂剤タンナルビン・乳酸カルシウム

腸内で徐々に分解されてタンニン酸を遊離し、腸の粘膜を保護し、水分の分泌を抑制し、腸粘膜に穏和な収斂作用を現わします。ガゼインが含まれるので、牛乳アレルギーの人は内服できません。

 

3.吸着剤アドソルビン

腸管内の有害物質、微生物、水分、粘液、ガスなどを吸着除去するとともに、ゲル化して腸粘膜を覆い、刺激から腸粘膜を保護します。

 

4.腸管蠕動抑制剤ロぺミン・ロートエキス

腸管の動きを抑えて、強い下痢止めの効果を現わします。
細菌など有害物質を腸管内に停留させる欠点があります。

 

5.乳糖分解酵素ミルラクト・ガランターゼ

下痢で腸粘膜がダメージを受けると、乳糖(ミルクや牛乳に含まれる、下痢を引き起こしやすい成分)を分解する酵素が不足してきます。それを補うための薬で、特に乳児に良く用いられます。哺乳前に服用させます。

 

6.漢方薬五苓散

少し苦いので飲みにくいかも知れませんが、嘔吐・下痢・腹痛などに効き目があります。漢方薬は名前に湯がつくものはお湯で、散がつくものは水で服用するそうです。五苓散は少量の熱い湯で溶かし、氷を入れ冷やすと服用させやすくなります。好みによっては砂糖を入れてもかまいません。それからスプーンで一杯ずつ時間をかけて飲ませます。

 

3. 発熱

感染症であるので多くは発熱を伴います。乳幼児が発熱のために不機嫌、不穏になるようになればアセトアミノフェンを投与します。
解熱剤は吐き気がある時は座薬、下痢が続いているときは内服薬を選択します。

 

4. 腹痛

腹痛は消化管の収縮に伴うものであり、潰瘍や虚血性腸炎による痛みではありません。圧痛は、ないかあっても軽度で限局されません。腹痛の持続時間は15分以内のことが多い様です。冷たい水分や固形物を経口摂取すると、その刺激で腸蠕動が始まり、腹痛を訴えることがあります。ブスコパンなどの鎮痙薬は腸閉塞症などの副作用があるので、使用しないことが望ましいと思われます。

 

(4)感染性胃腸炎の感染経路
1.ウィルス性腸炎

基本的には経口感染で、主に次の場合が考えられます。

  • 1.感染したひとの便や吐物に触れた手指を介して、ウィルスが口に入る場合
  • 2.乾燥した便や吐物中から、空中に浮遊したウィルス粒子を吸い込んだ場合
  • 3.感染した人が不十分な手洗いで調理して、食品を汚染した場合
  • 4.ウィルスを内臓に取りこむことがある食品(ノロウィルスではカキやホタテ貝などの二枚貝)を生または不十分な加熱処理で食べた場合、ノロウィルス感染症では、症状がなくなった後も2週間も糞便中にウィルスを放出し続けるとされ、周囲への感染について注意が必要です。
 
2.細菌性腸炎

細菌性腸炎では食品に付着、増殖した細菌により感染するもので、ヒトからヒトへの感染はウィルス性腸炎よりも起きにくいとされています。
発症のメカニズムは次のように分けられます。

 

1.感染型

食品中に混入して増殖した原因菌が、腸管内でさらに増殖し、その毒作用によって胃腸炎症状を発症する。
(サルモネラ・腸炎ビブリオ・病原性大腸菌・カンピロバクターなど)

 

2.毒素型

原因菌が食品中で増殖し、毒素を産生する。この毒素で汚染された食品を摂取して発症する。感染型に比べて発症までの潜伏期が短い。
(ボツリヌス菌・ブドウ球菌・セレウス菌嘔吐型など)

 

3.中間型

食品とともに接種された原因菌が腸管内で増殖して毒素を産生し、胃腸炎症状を発症する。
(腸管出血性大腸菌・毒素原性大腸菌・ウェルシュ菌・セレウス菌腸炎型・エルシニアなど)

 

(5)各論―各感染性胃腸炎の特徴

1)ウィルス性胃腸炎

1. ノロウィルス腸炎

【ウィルスの特徴】

ノロウィルスはカリシウィルス科に分類されている腸管系ウィルスです。
1968年に米国オハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の糞便からウィルスが検出され、発見された土地の名前を冠してノーウォークウィルスと呼ばれました。
1972年に電子顕微鏡下でその形態が明らかにされ、このウィルスがウィルスの中でも小さく、球形をしていたことから(図1)小型球形ウィルス(SRSV)とも呼ばれていました。
2002年8月、国際ウィルス学会で正式にノロウィルスと命名されました。
汚染された飲料水、食べ物(生カキやホタテ貝などの2枚貝、サラダが多い)や調理人の手などを介して感染し、学童、成人、老人施設で集団発生することが多く、11月から3月の冬季を中心に流行します。

 

【症状と合併症】

ノロウィルスの潜伏期間は24~48時間で、その後悪心、嘔吐、腹痛、下痢、発熱などの胃腸炎症状をきたします。たいていは軽症で3~4日の経過で改善しますが、嘔吐や下痢は頻回で強い脱水症状を呈することがあり、脱水に対する手当が遅れると重大な結果をもたらすこともあります。また、発症後1週間は糞便や吐物中にウィルスを排出し、感染源になります。
合併症としては嘔吐、下痢による強い脱水症状が認められることもあり、胃腸炎症状以外に髄膜炎様の中枢神経症状の報告が稀にあります。

 

【診断と治療】

これまでは糞便、吐物、食品などから遺伝子検査(PCR法)や電子顕微鏡検査によりノロウィルスを検出しておりましたが、これらの方法では費用と時間を要し結果が判明したころには症状が軽快し、感染の蔓延化を防ぐ役には立ちませんでした。
平成19年12月、ノロウィルス抗原を迅速に検出するクイックEX-ノロウィルスが発売されました。約30分で判定できるイムノクロマト法であり、遺伝子検査であるPCR法と比較して感度73%・特異度99%であり、感度はやや低いですが陰性を陽性と誤診断しない特異度に優れた検査です。欠点は現在のところ保険適応がないため高価なことであります。疑わしい患者を調べると大部分がノロウィルス陽性であり、流行している感染性胃腸炎の原因はほとんどがノロウィルスによるものと考えられます。
治療については、現在このウィルスに効果のある抗ウィルス薬はありません。このため通常は対症療法が行われます。特に体力の弱い乳幼児や高齢者は、体力を消耗や脱水症に対して注意をし、水分と栄養の補給を十分に行う必要があります。脱水症が強い場合には、入院し輸液を行うなどの治療が必要になることもあります。

 

【予防】

ノロウィルス感染症では、ほとんどの場合患者さんとの接触や汚染された水・食品を介して経口的に感染します。このため日頃から手洗いの励行(特にトイレの後や調理の前)やうがいが望まれます。また家族に患者さんがいる場合には、吐物や便の処理の際にはビニール手袋を使用し、汚物はビニール袋に入れて口をよく密閉して捨てて下さい。また汚染された可能性のあるものは次亜塩素酸ナトリウムで消毒する様にして下さい(図1:ノロウィルスに注意しましょう!)

 

ノロウィルスに注意しましょう!

図1:ノロウイルスに注意しましょう!

 

2.ロタウィルス腸炎(乳児嘔吐下痢症)

【ウィルスの特徴】

1月初旬からインフルエンザより先に乳幼児の間で流行するのが、ロタウィルスによる腸炎です。発展途上国では乳児死亡の主な原因の一つです。電子顕微鏡で車輪が回転する様な形をしていることから、ロタウィルス(rota-、rotary:[形容詞]回転する)と呼ばれています(図2)
生後6カ月から2歳までが好発年齢であり、重症化しやすく、それ以外の年齢でも発病しますが一般に軽症です。毎年冬に発病のピークがあり、5℃以下になると流行します。
ヒトに感染することが解っているのはA、B、C群の3種類で、一般にロタウィルスといえばA群を指し、B群は以前に中国で流行しましたが日本では見られません。C群ロタウィルスによる腸炎は春から初夏にかけて多く見られますが、主に3歳以上の年長児や成人にみられ、A群のような大規模な流行はほとんどありません。
それぞれの群には一度かかると終生免疫がつきます。

ロタウイルスの電子顕微鏡写真

図2:ロタウイルスの電子顕微鏡写真

 

【症状と合併症】

乳幼児に見られる約1週間続く白色下痢便が特徴的で、「米のとぎ汁」の様な白色便のことがあります。白い便の色がコレラに似ることから以前は小児化仮性コレラとも呼ばれていました。主症状は白色下痢便ですが、便の色は必ずしも白色ではなく、年長児や成人にも感染します。
病初期に嘔吐を伴い、軽い発熱と咳を認めることもあります。
合併症としては、激しい下痢・嘔吐に伴い脱水症に陥りやすく、腸重積症の報告もあります。胃腸症状以外には痙攣、脳炎、髄膜炎、脳症、ライ症候群の様な中枢神経系合併症を起こすこともあり、また肝機能障害が見られることもあります。

 

【診断と治療】

特徴的な症状の他、便中のロタウィルスの検出により診断できます。迅速診断キットが市販されており、約15分以内に便中からロタウィルス抗原が検出されます。

 

1.嘔吐を伴う時期

この時期は比較的短く、食欲はほとんどありませんので、5~6時間は絶食・絶飲に近い状態にして下さい。それでも嘔吐したり、グッタリし目が落ちくぼんだり、手足が冷たい時には入院加療が必要です。5~6時間経って吐き気がややおさまると水分を要求するようになります。白湯、薄めのジュース、イオン飲料などを1回に3~5ccづつ、2~3分間隔から始め、嘔吐がなければ量を増やしていきます。動物性蛋白、脂肪に富むミルクや牛乳をこの時期に与えると、ウィルスの攻撃を受けて弱っている腸に負担がかかり吐きやすく、また下痢が長引く恐れがあります。母乳の蛋白質、脂肪は牛乳よりも吸収されやすいため、少しづつなら与えてもかまいません。
嘔吐の時期を乗り切れば一安心です。

 

2.嘔吐がおさまって下痢だけの時期

米のとぎ汁様の白い便になったり、オムツからこぼれるくらいの大量の水様便が出ますが、心配はありません。嘔吐がおさまっても下痢により体の水分や電解質が失われますので、水分の補給が必要です。薄い塩味の野菜スープがおいしく感じられる頃なので、作ってあげると喜びます。お腹にかかる負担が最も少ないのは、お粥、うどん、パンなどのでんぷん類です。

 

3. 下痢が2週間以上続くとき

下痢が長引くと腸粘膜の多糖類分解酵素の活性が低下し、さらに治療しにくくなります。この状態は腸炎後症候群といいます。
下痢の食事療法の原則は、弱った腸に負担をかけないために動物性蛋白や脂肪を避け、でんぷん質を摂取することです。

 

3.アデノウィルス腸炎

アデノウィルス腸炎は主に3歳未満の乳幼児にみられ、この年齢層の感染性胃腸炎ではA群ロタウィルスに次いで多く認められます。通年性ですが夏季にやや多くみられること、比較的軽症で発熱が少ないことがA群ロタウィルスと異なります。

 

4.札幌ウィルス腸炎

カリシウィルス科に属する直径30~35nmの小型ウィルスで、集団発生する2歳未満の乳幼児の急性胃腸炎の原因としては、ロタウィルスに次いで多いです。

 

5.アストロウィルス腸炎

主に乳幼児に散発性の急性胃腸炎を起こすが、成人や老健施設で流行することもあります。冬季に発症しますが、一般に軽症で嘔吐や発熱も少ないです。

 

6.その他

夏に流行するエンテロウィルス感染症の一部には、下痢症状を呈するものもあります。またB型インフルエンザウィルスでも胃腸症状を起こすことがあります。

 

表 ーウィルス性胃腸炎のまとめー

ウィルス科

直径nm

特徴

重傷度

迅速診断法

レオウィルス

ロタウィルス

70

生後6ヶ月から2才までの乳児に多く、重症化しやすい。冬季に集団発生する。

最重症

あり

カリシウィルス

ノロウィルス

27 - 32

学童、成人の食中毒様集団発生、および全年齢層の急性胃腸炎。

重症

あり

札幌ウィルス

30 - 35

乳幼児の急性胃腸炎、集団発生。

中等度

なし

アデノウィルス

腸管アデノウィルス

70 - 80

胃腸炎だけでなく、結膜炎、上気道炎、肺炎、虫垂炎、腸重積、出血性膀胱炎などの原因となる。7型は重症化する。

中等度

あり

アストロウィルス

アストロウィルス

28 - 30

主に乳幼児に散発性の急性胃腸炎を起こす。

軽症

なし

※1nm = 10億分の1メートル

 

2)細菌性胃腸炎

1. サルモネラ腸炎

腸炎ビブリオと並んで代表的な食中毒の原因菌です。
イヌ・ネコ・ニワトリ・ネズミ・カメなどに広く分布するサルモネラ菌が、卵、食肉またはその加工品を汚染して食中毒が発生します。
夏に発生が多く、特に鶏卵汚染が注目されています。液卵と呼ばれる業務用の鶏卵加工品が汚染されていると、調理時の温度管理が不完全な飲食店などを中心に、広域に大規模な食中毒が発生します。また最近はケーキのサルモネラ食中毒がしばしば見られます。
潜伏期は12~48時間程度、主症状は発熱、腹痛、下痢、嘔吐で血便を認めることもあります。38度以上の発熱が1週間続くこともあります。下痢の回数は1日数回から10回以上、多くは水様下痢便ですが膿粘血便になることもあります。
病変はS状結腸や盲腸、回腸などに広範囲にみられ、診断は糞便、血液より菌の検出を行います。治療薬はアンピシリンやホスホマイシン、ニューキノロン剤が有効です。

 

2. 腸炎ビブリオによる腸炎

腸炎ビブリオは沿岸の海水中にいて、水揚げされた魚介類が死ぬと、その肉中に侵入します。夏季には魚肉中で急速に増殖するため、刺身、寿司などで魚介類を生食した場合、食中毒が発生します。
主病変は小腸で、魚介類を食べた後わずか数時間で発病します。
症状は激烈な腹痛と下痢で、悪心、嘔吐を伴い、血便を認めることもあります。初期の症状は激烈ですが、経過は短く、通常2~3日で回復します。

 

3. キャンピロバクター腸炎

キャンピロバクターはウシ・ブタ・ニワトリなどの腸管に高率に分布し、菌に汚染された肉、またはその肉を調理したまな板を介して感染します。鶏肉、鶏卵、牛レバーなどが感染源になります。
潜伏期は1~7日と長いのが特徴です。腹痛、悪心、嘔吐を伴い、38度以上の発熱が3日くらい持続します。下痢は1日10回くらいで約半数に血便を認め、症状改善までに3~5日かかります。
新生児では敗血症や髄膜炎などの全身感染をおこすこともあります。
急性に発症する左右対称性の四肢運動麻痺をきたすギラン・バレー症候群の原因になります。
マクロライド系抗生剤が第1選択薬であり、ニューキノロン剤には耐性を示すことが多いといわれます。

 

4. 病原性大腸菌(下痢原性大腸菌)による腸炎

大腸菌は健康な人の腸管内に常在し病原性はありません。ある特定の大腸菌は下痢を引き起こし病原性大腸菌といわれ、次の4種類が含まれます。

  • 1.腸管病原性大腸菌(EPEC)
  • 2.腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)
  • 3.腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
  • 4.腸管出血性大腸菌(EHEC、ベロ毒素産生性大腸菌:VTEC)

このなかで腸管出血性大腸菌は他の病原性大腸菌と異なり、ベロ毒素を産生し、2次感染もみられ指定伝染病であります。汚染源はであり、腸管出血性大腸菌のうち70~90%が有名なO157であり、圧倒的多数を占めています。
初期には泥状、水様の下痢便で、1~2日後に激しい鮮血便を呈する出血性大腸炎を起こします。下痢が始まって8日目頃に溶血性尿毒症症候群や脳症を続発することがあります。

 

5. エルシニア腸炎

エルシニア菌をもつ動物(ブタ・ウシ・ヒツジ・ウマ・イヌ・ネコなど)
の糞便に汚染された食物や、水を摂取することで感染します。
潜伏期間は平均5日で感染性は弱く、ヒトからヒトへの感染は稀です。小児が感染を受けやすく、ときに保育所や小学校での集団感染がみられます。
下痢、腹痛、発熱、嘔吐を呈し、1~2週間続くことが少なくありません。約20%に血便が認められます。成人では回腸末端に炎症を起こして右下腹部の腹痛を伴い、そのために虫垂炎と間違えられることがあります。

 

6.ブドウ球菌食中毒

耐熱性エンテロトキシン(腸毒素)を産生する黄色ブドウ球菌に汚染された食品を介する毒素型食中毒です。毒素は長時間の冷凍、煮沸でも破壊されず、胃酸や消化酵素でも不活化されにくく、消化管から吸収されて中枢性に催吐作用を発揮します。
感染源は調理者の手指の傷口の化膿巣である例が最も多いです。
平均2~3時間の潜伏期の後、突然の悪心、嘔吐、腹痛をきたします。下痢、発熱はほとんど認められません。大部分は24時間以内に軽快します。

 

7.ボツリヌス菌食中毒

ボツリヌス菌食中毒は腸詰中毒の別名で古くから知られており、致死率の高い食中毒です。加熱不十分な缶詰、瓶詰、真空パック食品などの、酸素が少ない条件下で食品中で増殖したボツリヌス菌の産生する毒素が、消化管から吸収され四肢麻痺・呼吸筋麻痺などをきたし、重症例では死亡します。缶詰・ソーセージ・蜂蜜が有名です。
潜伏期は12~36時間のことが多く、食品を十分に加熱すれば食中毒を起こすことはありません。

 
(6)腹痛をきたし外科的処置が必要な疾患

外来でみられる腹痛の原因として最も多いのは、胃腸炎と便秘ですが、なかには外科的な対応が必要な腹痛急性腹症)があり、注意深い問診と診察が必要です。感染性胃腸炎は対症療法として内科的、保存的に経過を診ていく場合が多いのですが、腹痛を訴える場合には、手術処置が必要な外科的な疾患の可能性も考えて、慎重に鑑別診断をすることが大切です。

 

1. 急性虫垂炎

【所発症状と腹痛の推移】

虫垂炎の腹痛はまず関連痛として、おへその周りの痛みとして感じられます。消化管の運動が低下して吐き気を伴うことも多いです。
炎症の進行とともに自発痛として右下腹部に痛みの部位が移行し、右下腹部痛を訴えるようになります。さらに腸管の漿膜面や腹膜へ炎症が波及すると、腹部所見として筋性防御(muscular defense)が認められます。これは腹膜炎で肋間神経、腰神経を介して腹壁の筋肉の緊張が反射的に亢進して、腹部を掌で圧迫すると板の様に硬く感じる(板状硬)所見です。小児ではしばしば痛みによる意識的な抵抗との区別が困難な場合があります。筋性防御とともに重要な腹膜刺激症状としてブルンベルグ兆候があります。これは反跳痛ともいわれ、腹膜炎の際に腹壁を静かに圧迫し、急に圧迫を解くと強く痛みを感じる兆候のことです。また炎症が後腹膜に波及するとしばしば腸腰筋の動きに伴う痛みを感じるため、患児をジャンプさせると右下腹部に響く痛みを訴えます(psoas sign)。

 

【診断と治療】

血液検査では、急性虫垂炎の診断にとって白血球数、特に好中球数は最も診断価値があり、10000/ul以上の白血球増多はCRP値の上昇とともに診断上重要な所見です。
腹部X線検査では虫垂突起の部位に一致して、糞石を認めることがあります。
腹部超音波検査上、直径7mm以上の虫垂は腫大していると考えられ、粘膜と筋層の層状構造の乱れは炎症を示峻する所見です。
急性虫垂炎を疑った際に抗生剤をむやみに投与すると、白血球数が低下し所見が修飾されてしまい、かえって治療の機会を遅らせてしまうという考え方が、外科を中心に存在します。一方、抗生剤は虫垂炎の治療に有用であるという明らかな成績も報告されています。
虫垂炎の治療は手術(虫垂切除術)を第一選択とすることはいうまでもありません。しかし、発症より日時が経過して膿瘍による腫瘤を形成する場合には、緊急手術を行うとその合併症が有意に増加するため、禁食および抗生剤投与により厳重な観察を行い、炎症性腫瘤の消褪を待って待機的に手術を行う場合があります(interval appendectomy)。この場合待機手術までの期間は1~4ヵ月です。
近年、虫垂切除術を腹腔鏡下に行う事が可能になり(腹腔鏡下虫垂切除術)、第一選択とする施設が増えています。

 

2. その他

その他に、手術や処置が必要な腹痛をきたす外科的な疾患としては、下記の様なものが挙げられます。

【小児疾患】

  • 腸重積症
  • 腸回転異常による中腸軸捻転
  • 鼠径ヘルニア嵌頓
  • 内ヘルニア嵌頓
  • 消化管穿孔による腹膜炎
  • メッケル憩室
  • 卵巣茎捻転
  • 睾丸捻転など
 

【成人疾患】

  • 腸閉塞症
  • 大腸憩室炎(穿孔を伴う)
  • 消化管穿孔による腹膜炎
  • ヘルニア嵌頓
  • 虚血性腸炎
  • 胆石症・急性胆のう炎
  • 急性膵炎
  • 子宮外妊娠、卵巣茎捻転などの産婦人科的急性腹症など
 

【参考資料】

  • (1) 小児の市中感染症診療パーフェクトガイド
  • (2) 子供によく見られる病気~症状から診断へ~
  • (3) 感染性腸炎 A to Z
  • (4) メルクマニュアル医学百科最新家庭版
  • (5) 国立感染症研究所感染症情報センター 感染症の話
  • (6) 今日の治療薬
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